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札幌高等裁判所 昭和27年(う)326号 判決 1952年9月04日

控訴人 被告人 市川正昭

弁護人 渡辺七郎

検察官 金井友正関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人渡辺七郎の控訴趣意はその提出にかかる控訴趣意書に記載のとおりであつて、これに対する判断は次のとおりである。

原判決挙示の各証拠によると、被告人は(一)昭和二十五年四月初頃札幌市北海道大学低温化学研究所内で原審相被告人斎藤光郎から塩酸モルヒネ五グラムの売却を委託されて同品を受取つた上(二)同日頃同市南一条西十四丁目一番地の原審相被告人金又玉世方で同人に同品を代金二万円で売渡してこれを引渡した事実を認めうるのであつて、かように麻薬の売却を委託されてその麻薬を受け取ることは麻薬取締法第三条にいう麻薬を譲り受ける行為に該当し、(最高裁判所昭和二十六年(あ)第三六三四号、昭和二十七年四月十七日第一小法廷判決参照)また売却を委託されて受け取つた麻薬を他人に売却してこれを買主に引き渡すことは同条にいう麻薬を譲り渡す行為に該当するものと解するものを相当とするから、右事実をもつて同条にいう麻薬の所持であるとの見解の下に原判決に事実の誤認があると主張する論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 藤田和夫 判事 臼居直道 判事 東徹)

弁護人渡辺七郎の控訴趣意

原判決は事実を誤認し右誤認は当然刑の量定に影響を及ぼすべきものである。

一、原判決は(一)「被告人市川正昭は斎藤光郎より塩酸モルヒネ五グラムを譲受け」(二)「右モルヒネを金又玉世に譲渡した」ものと認定しているが本件被告人の所為は単に斎藤光郎の依頼を受け之を金又玉世に譲渡しその仲介をしたに過ぎない事は極めて明かである(原審第一回乃至第三回各公判調書記載の被告人の供述記載並に原審相被告人斎藤光郎及同金又玉世の供述記載及原判決援用の各証拠全部)然らば被告人の行為は麻薬取締法第三条中の「譲り受け、譲り渡し」を以て所断せらるべきでなく同条中の「所持」の責任を負うべきものである。

二、右原判決の誤認は判決に影響を及ぼす程度のものかどうか、即ち刑の量定に変更を加えらるべき程度のものかどうかの点であるが原判決は被告人に対して「麻薬取締法第三条第一項第五十七条第一項(懲役刑撰択)刑法第五十六条第五十七条第四十七条第十条(犯情の重い第二の(二)の罪の刑に併合加重)の法条適用をしているので本件事実誤認は当然右「犯情の重い第二の(二)の罪に併合加重」するべきでなく単に麻薬取締法第三条「所持」に対する罰則適用が相当であるから本件事実誤認は当然法の適用に変更を加うべく右変更の結果当然刑の量定も亦変更するべく即ち判決に影響を及ぼすものである。

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